
「大切なものって、いつも近くにあって変わらないのに、時々どこにあるのか分からなくなってしまう。よくみれば手に届くところにあるのに、失くしてしまったと勝手に思ってしまう。僕にはあなたがいる。そのことに今日気づいた」
(映画『ツレがうつになりまして』より)
ある日突然、夫がうつに!
ツレ(堺雅人)とハルさん(宮崎あおい)は、結婚5年目の夫婦。売れないマンガ家・ハルさんは超マイペースな性格、ツレは生まじめなサラリーマンで、お弁当に入れるチーズの種類を曜日ごとに決めているほどの几帳面な性格。
そんなツレの様子が次第におかしくなります。食欲がなくなり、朝は起きることができなくなり、ついには「死にたい」と口にするように……。病院での診断結果は「うつ病」。原因は仕事で抱えたストレスでした。
ハルさんはうつ病に気づかなかったことをツレに謝り、「会社を辞めないと離婚するよ」と告げます。以降、家計はハルさんが、家事はできるだけツレが担当することになるのですが……。
ハルさんが仕事で追いつめられたりすると、彼女自身も気持ちの余裕がなくなり、ついツレに当たってしまいます。それ以外にも、「妻やみんなに迷惑をかけている自分が情けない」と自責の念が強まり、そのうちツレは「自分なんていなくてもいいんだ」と思いはじめるようになります。
長い冬、明けない梅雨のような日々が続くのですが、ハルさんの温かな見守りのおかげで、ある日ツレはフッと心が軽くなる日を迎えるのです。
そんな時、ツレがハルさんに伝えた言葉がこれ。
「大切なものって、いつも近くにあって変わらないのに、時々どこにあるのか分からなくなってしまう。よくみれば手に届くところにあるのに、失くしてしまったと勝手に思ってしまう。僕にはあなたがいる。そのことに今日気づいた」
健やかな相手を愛せるのは当たり前。病める時こそ、愛が試される。
ヒトは”健やかなる時”は誰しも希望に満ちていて楽しいことしか考えられず、相手への愛情も深めていけるものですが、問題は”病める時”。相手、または自分が病んでいる時に、健やかな時以上に思いやりをかけることはけっこう至難の技なのです。
「いやいや、私ならば彼が病んでいる時こそ、バックアップしてあげられるわ」と”健やかなる時”はみんな思うもの。しかし実際にハルさんの立場になったら、「終わりがくるのか、それさえも分からない」という暗闇状態になったら、平和だった時と同じように相手を思いやることができる人は、はたしてどのくらいいるのでしょう。
恋人や家族が”ダメな状態”の時、「しっかりしてよ」とか「私たち、どうなるのよ!」と叱咤激励のつもりで苦しんでいる本人をつい責めてしまうことがありますよね。一番味方になってもらいたい人から追いつめられてしまうのですから、相手はさらに失意の底に……。そんな恋は、残念ながら遅かれ早かれ必ず終わりを迎えるはず。
相手の”病んだ姿”や”ダメな状態”を想像することができ、それを含めて”好き”と思える人としか、一緒に暮らしていけないものです。そして「相手が側にいること」「自分はひとりで戦っているのではないということ」に気づき、そのことに心の底から感謝することも大事。この気持ちをもって初めて、恋は愛に変わっていくのだと思います。
「愛は、病める時こそ深まるもの」。そんなことを教えてくれる映画です。