銀座カラー名作に学ぼう 今週の、あのセリフ

失恋はただ悲しいだけではないことを、韓国映画『イルマーレ』がおしえてくれる

 

「誰かを愛して誰かを失った人は、何も失っていない人よりも美しい」

 

時空を超えた一通の手紙

 

2000年に公開された韓国映画『イルマーレ』。ハリウッド映画でも、キアヌ・リーブス&サンドラ・ブロック主演でリメイクされたので、もしかしたらアメリカ映画のほうでご存知の方が多いかもしれません。

オリジナルもリメイク版も、当然ながら設定はほぼ同じ。しかしセリフだけで言えば、断然オリジナルの韓国版が個人的に好みです。そのひとつが「誰かを愛して誰かを失った人は、何も失っていない人よりも美しい」というもの。

 

映画の舞台は、海辺に建つアートフルな一軒家。1999年12月、ウンジュ(チョン・ジヒョン)はこの”イルマーレ(海辺の家)”を離れ、都会へと引っ越して行きます。一方、1997年12月、イルマーレに引っ越してきたソンヒョン(イ・ジョンジェ)は、見知らぬ女性からの手紙を郵便受けのなかで見つけます。その手紙には「イルマーレに住んでいた者です。私宛の手紙が来たら新しい住所に送って下さい」と書いてあるのですが、ここでソンヒョンの頭にはクエスチョンマークが……。なぜならイルマーレの最初の住人はソンヒョンであり、元住人なんて存在するわけがないのですから。

 

手紙の日付を見ると、2年後の1999年。なんと未来からの手紙だったのです。ちょっとだけ種明かしをすると、この手紙はウンジュがイルマーレを引っ越す際に郵便受けに入れたもの。つまり次の住人に「郵便物の転送のお願い」を勝手に託していったというわけです。「そんなの、郵便局にお願いしなさいよ」という無粋な突っ込みはグッと飲み込みましょう。この一通がなぜかタイムスリップして2年前にイルマーレに住んでいたソンヒョンに渡ってしまい、不思議なラブロマンスが始まるのですから。

 

辛いのは、愛が終わらずに続いていること

 

これを機にタイムマシーンと化した郵便受けを通じて、時空を超えた「文通」がスタート。2年のズレがあるというのを知りつつ、互いに心を通わせ始めます。例えば、元カレのことをなかなか忘れられないウンジュは、その未練をソンヒョンにしたためます。

 

「辛いのは、愛が終わらずにずっと続いているということ。失恋したあとも」

 

こんなに心が消耗してしまうのならば、あの時あの人に会わなければよかった。恋なんてしなければよかった。過去の思い出が輝くほどにズキンと心が痛むから、いっそのこと記憶喪失にでもなりたい。こんな思考の堂々巡りは、誰でも一度は経験したことがあるはず。失恋における地獄のような苦しみは、「記憶」と「自信喪失」による激しい心の揺さぶりから生まれてくるものですから。

 

そんな失恋地獄にいまだに苛まされているウンジュに、ソンヒョンが返信したのがこれ。

 

「誰かを愛して誰かを失った人は、何も失っていない人よりも美しい」

 

何度失っても、何度も手にする権利がある

 

失恋は、女性からすべてを奪います。希望は消え、食欲は失せ、涙は枯れることなく流れ落ち、ハッと気づくと鏡のなかには「……誰だお前は」というような劣化した自分が映っていたりします。「こんな私を愛してくれる人なんて、もう現れるはずがない」。確信に近い絶望をこっそり抱き始めた女性に、優しい雨を降らすのが「あなたは美しい」という言葉なのです。嘘だ、単なる気休めじゃないか。そんな反論と同時に「そうであってほしい。いや、そうでないと私が可哀想すぎる」という思いが湧いてきます。しまいには「私には幸せになる権利がある!」と拳を振り上げる女性もいることでしょう。

 

失恋は、失うばかりではありません。食欲がなくなるほど、景色から彩りが消えるほど、「誰かを愛した」という事実を手にします。痛みを伴う愛の実感は、必ずのちにその人の魅力となって輝きます。そのことを知っているからこそ、ソンヒョンは「失った人のほうが美しい」と表現したのです。

 

もちろん、なにも失わないほうが精神衛生上は楽に決まっています。でも失ったからといって、世界が終わるわけではありません。近視的になりがちな失恋時の心に、ソンヒョンの言葉は視力と彩りを取り戻してくれるようでもあります。恋で自信を無くした時に、ぜひ思い出したい一文です。

 

 

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